健康経営というと、「健康診断を受けてもらう」「運動や食生活を改善する」といった取り組みを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、病気を予防することは大切です。
しかし、どれだけ予防に取り組んでも、病気や不調を完全になくすことはできません。
だからこそ企業には、
予防 → 早期発見 → 治療 → 就業継続
までを一つの流れとして考える視点が必要です。
特に従業員20〜50名程度の中小企業では、一人の長期離脱が、他の社員の負担や顧客対応、事業そのものに影響することがあります。
だからこそ健康経営を「社員を健康にする施策」ではなく、人が働き続けられ、事業も続けられる会社をつくる人材戦略として考えて欲しいのです。
健康経営は「生活習慣改善」だけではない
たとえば、健康診断で異常が見つかった社員がいたとします。
健康診断を受けただけで終わり、再検査や受診につながっていなければ、早期対応の機会を逃してしまうかもしれません。
治療が始まっても、
- 通院のために休みにくい
- 勤務時間を調整できない
- 業務量を減らせない
という職場では、治療と仕事の両立が難しくなることがあります。
さらに、その社員しか分からない仕事が多ければ、本人の健康問題がそのまま会社の経営課題になります。
だから健康経営は、「病気を予防できているか」だけを考えるものではありません。
病気や不調が見つかった“その後”まで、働き続けられる仕組みがあるか。
ここまで見ることが大切です。
国の考え方も「早期発見・受診」へ広がっている
2025年12月、厚生労働省は一般健康診断の検査項目等に関する検討会の報告書を公表しました。
その中では、女性特有の健康課題について、一般健康診断の問診票に月経困難症、月経前症候群、更年期障害などに関する質問を追加することが適当とされています。
背景にあるのは、本人の気づきを促し、必要に応じて専門医への早期受診や職場での配慮につなげるという考え方です。
また、2026年4月からは、治療と就業の両立支援に関する事業主の取り組みが努力義務となりました。
企業の健康管理は、単に「健診を実施したから終わり」ではありません。
不調への気づき、受診、治療、そして働き続けるための支援までどうつなげるか。
企業にも、この流れを考えることが求められています。
なぜ中小企業ほど重要なのか
従業員数の少ない会社では、一人が担う役割が大きくなりやすいものです。
たとえば、
- 主要顧客を一人の営業担当者が抱えている
- 経理を一人しか分からない
- ベテラン社員しかできない作業がある
- 社長自身が営業・採用・現場管理を担っている
こうした状態で誰かが長期間休むことになれば、影響は本人だけにとどまりません。
残った社員に仕事が集中し、顧客対応が滞る。管理職や経営者の負担も増える。
そのため、中小企業の健康経営では、
「社員が病気にならないか」と同時に、「その社員が休んでも会社が回るか」
まで考える必要があります。
治療と仕事の両立支援と、業務の属人化対策やBCP。
一見別々の課題ですが、中小企業ではつながっている経営課題です。
「予防→発見→治療→就業継続」を一本で考える
健康診断、再検査、休暇、復職支援……。
それぞれの制度があっても、社員から見てつながっていなければ十分とはいえません。
大切なのは、必要な人が、必要なタイミングで次の支援につながれることです。
たとえば健康診断で異常所見があった場合、事業者には医師等の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を講じる仕組みがあります。
また、一般健康診断ですべての病気を発見できるわけではありません。必要に応じて各種検診や医療機関への受診につながることも重要です。
さらに治療が必要になったら、通院や治療を続けながら働けるのか、休職が必要なのか、復職するときにはどうするのか。
一連の流れとして考えておくことが、働き続けられる会社づくりにつながります。
自社では、どこまでつながっていますか?
新しい制度をつくる前に、まず現在の仕組みを確認してみましょう。
- 健康診断を受けられていない社員はいないか
- 要再検査・要受診となった後、受診しやすい環境か
- 健康上の問題を誰に相談すればよいか分かるか
- 通院や治療のために休暇を取りやすいか
- 勤務時間や業務量を調整できるか
- 休職・復職時の相談や判断の流れがあるか
- 治療と仕事の両立を、その都度ゼロから考えていないか
- 一人が休んだ場合、業務を引き継げる状態になっているか
すべてに新しい制度が必要なわけではありません。
すでにある有給休暇、面談、業務分担、就業規則などを整理することで対応できることもあります。
女性の健康も「福利厚生」ではなく人材戦略として考える
月経や更年期などの健康課題も、単に「女性向けの福利厚生」として考えるだけでは十分ではありません。
不調を抱えながら働く社員が、必要なときに受診できるか。
仕事に支障があるときに相談できるか。
必要に応じて働き方を調整できるか。
こうした環境は、人材の定着や就業継続に関わる問題でもあります。
一方で、会社が社員一人ひとりの症状を詳しく把握することが目的ではありません。健康情報は非常にプライベートな情報だからこそ、適切な情報管理と本人への配慮も欠かせません。
「女性だけの問題」と切り離すのではなく、さまざまな事情を抱える人が働き続けられる組織をどうつくるか。
人材戦略として捉えることが重要です。
20〜50名の企業は「制度を増やす前」に棚卸しを
では、何から始めればよいのでしょうか。
まずおすすめしたいのは、新しい制度を導入することではなく、今ある仕組みの棚卸しです。
たとえば、次の流れを一度書き出してみます。
健診を受ける
↓
異常が見つかる
↓
再検査・受診する
↓
治療が始まる
↓
通院しながら働く/休職する
↓
復職する
それぞれの段階で、
「社員は誰に相談するのか」
「会社はどう対応するのか」
「その人の仕事は誰がカバーするのか」
を確認します。
流れが途切れているところがあれば、そこに自社がこれから考えるべき健康課題・人材課題があります。
制度を増やすこと自体を目的にせず、今ある仕組みを整理して、足りない部分を補っていく。
それが、20〜50名程度の中小企業にとって取り組みやすい健康経営の始め方です。
まとめ|「人が働き続けられ、事業も続く会社」へ
健康経営は、病気を予防するためだけの取り組みではありません。
予防し、早く気づき、必要な治療につなげる。そして、治療が必要になった後も働き続けられる環境を整える。
さらに中小企業では、社員一人の健康問題を「その人だけの問題」にせず、業務分担や属人化、事業継続まで含めて考えることが重要です。
「社員を健康にするために、何をすればよいか」ではなく、
「人が働き続けられ、誰かが休んでも事業を続けられる会社になっているか」
この視点で自社を見直すことが、健康経営を人材戦略・経営戦略として考える第一歩です。
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参考資料・出典
- 厚生労働省「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会 報告書」(2025年12月24日公表)
- 厚生労働省「女性特有の健康課題に関する問診に係る健診機関実施マニュアル」等(2026年1月19日公表)
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(2026年4月1日適用)
- 労働安全衛生法 第66条の4・第66条の5
